アオトのコゴト

ここは文字に臆病になった僕が通う診療所

にらたま

天国のおばあちゃんへ

 

拝啓

元気にしてますか? っておかしいな。そっちはどうですか? 

もうあれから16年経つね。はやいなあ。ぼくは、28歳になりました。もうすっかり大人です。でも心は全然成長してない。ガキンチョのまんま。おばあちゃんに毎日ピアノの前で怒られてたときと変わりません。

 

それでも、16年も時間が流れると色々あった。

「ぼく」使いが「おれ」に変わったこと。

友達がいっぱいできたこと。

付き合う人がしょっちゅう変わったこと。

大学はおかんの芸大に入学したこと。しかも建築学科(笑)

そこで賞をとったこと。

20歳のときに成田空港でパラグアイ行きの飛行機を待っていたとき、小説と出会ったこと。それ以来小説家を目指すことになったこと。

まさか徹おじちゃんと同じ道になるとは思ってなかった。てか、家族の誰も想像してなかったと思う。今でもあんまり意識はしてないけどね。

 

一番の変化はやっぱり、去年結婚したことかな。相手はね、めっちゃかわいくて日本人離れした顔の濃さの面白い子。

口悪いし、わがままやし、すぐ怒るけどなんかそれも楽しいです。愛おしいです。夫婦って不思議やね。きっと、おばあちゃんも会ったら絶対好きになると思うよ。

結婚して家族も増えた。念願の、おじいちゃんがぼくにもできました。しかも同時に2人! かたっぽのおじいちゃんはお酒大好きでさ、ビールめっちゃ飲むの。おじいちゃんとジョッキ交わすことなんて人生でないと思ってたから、会うたびに感動してます。で、おじいちゃんとお酒飲んでて思った。ぼくに酒好きの西阪の血が流れてて良かったって。アルコールへの耐性が遺伝しててよかった。おじいちゃんもぼくの飲みっぷりは気に入ってくれてるみたい。

 

家にいるときもひとりで晩酌したりします。おばあちゃんも食事のときは梅酒とか飲んでたの、懐かしいです。おばあちゃんとも飲みたかったなあ。でも、たぶん負けるな(笑)

最近はよく料理もするようになったんやけど。こないだ「にらたま」を作りました。おばあちゃんがよく作ってくれてた、あれ。庭に生えてるにら摘んできてよく土曜日のお昼に作ってくれたよね。かなり醤油が効いてて辛かったけど。でもおいしかった。ぼくが作ったやつは、ちょっと薄かったわ。今度醤油増し増しでやってみる。それに、何か物足りなかったのはきっと、たまごに焦げ目がついてなかったから。おばあちゃんの焦げは焼きすぎじゃなくて隠し味やったんやって今更気づいた。こんなちっちゃいことでも発見があるってすごいよね。

 

まあこんな話全部知ってるやんな。ほんまに言いたかったことは、あの日のことです。

おばあちゃんの入院してる病室で「ピアノやめたい」って言ったこと。そのまま辞めちゃったこと。正直後悔してる。あんだけ熱心に教えてくれてたのに。ごめんなさい。

 

でも、不思議なことにぼくが手を置いてる場所はまた「黒い」んよね。あのときは鍵盤やったけど、今はキーボード。ぼくはまた卵を包むように曲がった指先を毎日眺める生活を送ってます。言葉をひとつひとつ打ち込むたびに「あ、帰ってきたな」って思います。

 

今は黒い鍵が縦に四列連なったキーボードがぼくのピアノです。もうおばあちゃんはいないけど、いつも隣で見守ってくれてると思ってがんばってます。正直、手叩かれることないから気は楽かな(笑)

 

ま、そんな感じです。28歳のぼくからでした。また報告するね。

 

ではでは、お酒はほどほどに。楽しんでね。

 

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